データ分析

社内データは資産か、負債か?AI分析に必要なデータ整備と前処理の実際

目次

  1. はじめに
  2. なぜ“使えないデータ”が生まれるのか?
  3. AI分析に必要なデータの特徴とは?
  4. データ整備でやるべき5つのステップ
  5. 前処理で発生する課題と解決策
  6. 現場が抱える「データの壁」とは?
  7. データ整備を支援する体制と役割分担
  8. 自社で整えるべきか、外部支援を活用すべきか?
  9. 成功事例に学ぶ「分析につながるデータ整備」
  10. まとめ

1. はじめに

「データはあるが、AI分析には使えなかった」
「整備に時間がかかり、PoCが遅れた」

AI分析プロジェクトの多くで立ちはだかるのが、“データ整備”と“前処理”の壁です。

本記事では、AI分析を成功に導くために必要な社内データの質、整備の具体ステップ、そしてよくある課題とその乗り越え方を解説していきます。


2. なぜ“使えないデータ”が生まれるのか?

  • 目的なく収集されたデータが多い:業務システム導入時にとりあえず作った項目が放置されている
  • データの入力ルールが統一されていない:人によって表記ゆれや空欄が生じ、機械処理が困難
  • 運用とシステムがかみ合っていない:現場はExcelを使用し、システムは更新されていない
  • データの更新・保守体制がない:古いデータ、不要な項目が蓄積している

つまり、“使えないデータ”は偶然ではなく、運用設計とデータ設計の乖離によって生まれています。


3. AI分析に必要なデータの特徴とは?

AIにとって“使えるデータ”には、以下のような特徴があります:

  • 整っている(クレンジングされている):欠損値が少なく、誤入力が排除されている
  • 一貫性がある:表記や単位、カテゴリ分類が統一されている
  • 構造化されている:CSVやデータベースなど、列や属性が明確な形式
  • 正確である:現場の実態と一致している
  • 十分な量と幅がある:分析対象としてのボリュームと多様性がある

逆に、どれか1つでも欠けると、モデル精度が落ちたり、学習不能になることもあります。


4. データ整備でやるべき5つのステップ

  1. 目的の明確化と必要項目の選定
    何のために分析するのかを明確にし、必要なデータ項目をリストアップする
  2. 現状のデータ棚卸し
    社内にどのようなデータがあるか、どの形式で、どこにあるかを洗い出す
  3. 品質チェックと欠損・異常値の把握
    欠損、重複、異常な値を自動・手動で検出
  4. 整形・統合・正規化処理
    表記の統一、日付や数値のフォーマット変換、複数システムからのデータ統合などを実施
  5. メタデータと記録管理の整備
    「いつ、誰が、どう使ったか」がわかるように、データの説明や履歴情報を記録する

5. 前処理で発生する課題と解決策

課題1:欠損値や異常値が多く、分析対象にできない

解決策:欠損補完ロジック(平均・中央値・類似値)や、異常値の除外基準をルール化

課題2:システム間でIDやキーが一致しない

解決策:キー設計の見直し、変換マッピング表の作成

課題3:業務部門と分析部門の連携が弱い

解決策:データ辞書や業務フロー図を共有し、共通認識を持たせるワークショップの実施

課題4:手作業が多く、前処理に時間がかかる

解決策:ETLツールの導入、前処理フローのスクリプト化で自動化を図る

前処理は“地味”ですが、分析成果に直結する最も重要な工程の一つです。


6. 現場が抱える「データの壁」とは?

  • 入力の手間と負担感:現場は本業が優先で、データ入力が後回しになりがち
  • “なぜ必要か”が伝わっていない:入力が目的化し、活用意義が共有されていない
  • ツールや項目が現場に合っていない:入力しづらいUIや項目の多さが原因で、誤記や漏れが発生
  • 現場と本社の認識ギャップ:データ整備の責任が不明確で、協力が得られにくい

これらの「現場の壁」を乗り越えるには、“現場と共に整備する体制”の構築が不可欠です。


7. データ整備を支援する体制と役割分担

AI分析のためのデータ整備には、以下のようなチーム体制が効果的です:

  • 業務担当者(現場):入力実態や業務文脈の把握、データの意味付け
  • データ管理者(情報システム/IT部門):システム間連携、データベース管理、権限設定
  • 分析チーム(データサイエンティスト等):分析目的に合致するデータ仕様の策定と要求
  • プロジェクトマネージャー:進捗管理、各部門の橋渡しと意思決定

このような役割分担により、「分析に耐えうる整ったデータ」が社内資産として定着します。


8. 自社で整えるべきか、外部支援を活用すべきか?

自社で進めるメリット:

  • 自社特有の業務理解が深い
  • 継続運用のための知見が蓄積できる
  • セキュリティや社内ルールに即して対応できる

外部支援を活用するメリット:

  • 高度な前処理技術や自動化ノウハウを活用できる
  • 短期間で一定の品質を担保できる
  • 客観的視点で課題を指摘してもらえる

理想は「内製と外部のハイブリッド体制」。初期は外部支援で立ち上げ、徐々に内製化する流れが成功しやすいです。


9. 成功事例に学ぶ「分析につながるデータ整備」

小売業A社:POSデータの分析活用

  • 課題:店舗ごとに表記揺れがあり、全社分析に支障
  • 対応:商品名やカテゴリのマスタ統一、ETL導入によりデータ整備を自動化
  • 成果:レコメンド分析や需要予測が精緻になり、棚卸コストを15%削減

製造業B社:不良要因分析データの整備

  • 課題:記録項目が現場ごとにバラバラ、紙・Excelが混在
  • 対応:現場ヒアリングで必要項目を整理し、入力UIを統一
  • 成果:不良品発生要因が特定され、工程改善のスピードが2倍に

10. まとめ

AI分析の精度と成果は、データの質で決まるといっても過言ではありません。

  • 「使えるデータ」には一貫性、構造化、正確性、量が必要
  • 整備・前処理には組織横断の体制と継続的な改善が不可欠
  • 内製と外部支援を組み合わせ、効率的に資産化を進めることがポイント

“資産”としてのデータ活用は、整備と前処理から始まります。今あるデータが未来の成長を支える武器になるか、眠った負債になるかは、整備にかかっています。

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